「精霊魔法で飛んでいったから、もう到着してもおかしくはないよな?」
 意味深なラムラムの言葉。
 チークンはゴブとしては、「白亜の光ゴブ」と異名を取るほどの天才精霊術師です。ですから空を飛ぶ事くらいは問題になりません。


 元々、この地方は、人間の帝国から隔離されているのと同じ状態でした。青いリン族に隣接している村は、帝国の支配下にありました。ただゴブ一世陛下の治世の頃、人間の村は全部の人口が百人に満たなかったのです。


 その頃はゴブリン族の方が人口が多かった事もあり、人間の村は「相互不可侵、不干渉条約」を提案してきました。


 シックス君の「アルバス」はその時に送られたものであり、同時に人間族、ゴブリン族との交流の証でもあります。
 実は「アルバス」を送られた背景には、別の意図も隠されています。
 「アルバス」は先に言った通り「見本」です。「見本」である以上切れません。切れない剣が友好の証なのです。


 「切れない」からこそ、友好の証として送られたのです。


 互いに、「交流」を深めていこう、という意味を込めて。「戦い」で問題を解決するのはやめよう、という意味を込めて。
 シックス君の代になり、確かにそういった意味合いは失われました。
 「だから戦争をしていい」と、いう理屈は変です。自己防衛の為の戦いは仕方がないとしても、今回の戦いは明らかに侵略なのです。


 しかも、たった一冊の本を巡る。


 シックス君が立ち上がりました。