少年には友達がいない。


いつも傍に居てくれる家来たちは、とても友達と呼べる間柄ではないのだ。


その寂しさを満たすには、言葉が話せなくても良い、いつだって傍に居てくれる誰かが欲しかった。


…砦で一人ぼっちはごめんだ。


少年は日が暮れてもまだ帰ろうとはしなかった。


梟の声が聞こえるまでに戻りなさい。


そんな父の言いつけを破って、少年は森で見つけた穴倉に一人潜っていた。


どうせ誰も気づきやしないのさ、帰ったって何がある。


剣のお勉強だけだ。



膝を抱え、その谷間に顔を埋めて少年は泣いた。


次第に穴倉の入り口が暗くなっていって、顔を上げれば雨が降っていた。


雨…父上の嫌いな雨。


雨が降れば川が増水する。


そうなれば川下の村は水害に脅かされ、収穫前の作物が被害を受けてしまい、結果、国の不利益に繋がるからだ。


そこまでの経過を理解できない少年は、ただ雨は神様が泣いているのだと思っていたから、なんとか慰めなければと穴を出た。



風も酷い。


クロークが引っぺがされそうになって、慌てて少年は穴に戻った。



…どうしよう。


これでは家に帰れないかもしれないし、家来たちも探しにきてはくれないかもしれない。


日はどんどん落ちていくし、雲が代わりに顔をだして、辺りは急速に暗くなる。



…怖い、怖い。


夜がたまらなく怖いと思う少年は、ついに夜中になっても穴倉から出られず、ただ泣き続けていた。


早く帰ればよかったと、後悔しながら。