君も神を憎むと良い。
そう言ってルークは狡猾に笑った。
優しさをも含む奇妙なその声色を表情と共に、彼は一冊の本をセラの胸元に押し付けた。
黒い革の表紙で、おそらくそれもルークが書き綴った『人間の記録』なのだろう、セラは少し躊躇ったが、彼の視線に促されてページを捲る。
『アベル・レナード』
「………っ!」
1824年7月30日生まれ。
1838年コーンウォールパブリックスクールに入校、1843年卒業。
翌年爵位を継承、1873年セルギン公バラムレムが長女マリアと結婚し、翌年長男を、さらに2年後二男を、そしてその4年後に長女が誕生。
その翌年には娼婦オリヴィアとの間に子供が生まれ養子として引き取る。
1881年異端容疑が浮上、暗殺される。
「君は父上のことが好きだったのではないか」
川の流れを塞き止めるように非情な口調でルークは言った。
「母と自らに苦しい生活を強いた父親を、憎しみと背中合わせに君は愛情の類も持ち合わせていた。
自らを引き取り僅かながらに母の生活を援助してくれていた父に幾分か信頼を寄せてもいいと思っていた。
だからこそ君はアイヴァンスの言葉に酷く悲しんだ。
ならば憎いと思わないか、『異端』だなんてたかが背いただけで父を殺した神が」


