「これ、とっても甘くて美味しいですね」


「そうなんですか」


ホムラは不思議そうな顔をして頸を傾げた。


なにせ、人が食べる物だと聞いてアイヴァンスから渡されたレシピ通りに作った物だから、当然セラは食べたことがあると思い込んでいた。


「私は使用人扱いでしたから、お菓子はあまり食べたことがありません」


「そんな物ですか」



そんなものだ。


主人と使用人とではまるで種族の違いのように生活が区別される。


飼い犬にまで甘い物を取らせるほどレナードの家は心も懐も広くはなかった。



「食べてみてください、美味しいですよ」



きっと、と不確定要素を付け足した。


セラは一度迷う素振りを見せて、でもブランコから下りてロッキングチェアに腰かけた。


甘い香りが鼻腔を通り過ぎる。



「いただきます」


セラは焦げ茶色の菓子を手にとって口に運んでみた。


齧ってから、上流階級で守らなければならないマナー等々をふっと思い出して後悔した。


しかし詳細なんて知らない。




「美味しいです、すごく甘くて」


「そうですよね、ね。
やっぱり人って、物を造ることがとっても上手だと思うんです」



そういえばこの少年は人じゃない。


皮に中身を詰めただけの、他愛もないぬいぐるみ。



それとは解らないほど、昨夜ずっと傍にいてくれた彼は温かな掌をしていたのに。