アベル・レナード。


セラの父の名前であり、国の裏に君臨するとある結社の幹部の一人であった。


第13位、『瑠璃』の称号を貰い受けたレナード伯爵はとある事件で『魔術を行使してはならない』という規則に違反していることが発覚。


同じ結社の第6位、アイヴァンス侯爵に暗殺された次第である。



魔術の行使者は血縁者ごと全滅させるのが掟ながら、どういう気紛れか、このアイヴァンス侯爵は末っ子の少女を見逃した。


国への報告は『全滅完了』とされているために、戸籍上セラは死んだことになっていて捜索願なんぞ出てやしない。



その少女が、瑠璃を継いだルークに拾われるなんて、意図が無いといえども何て皮肉であろう。




「お前が女の子を拾うだなんて、1世紀に一度あるか無いか」


「別に哀れんだわけじゃないし情があったわけじゃない」


「じゃあ何だ」


「別に」





昨夜の満月の夜を思い出して、その理由を思索する。


泉に浸り、涙を流す少女を、ただ。




「綺麗だと思っただけなんだ」