セラに用意されたのは、部屋の壁とまったく正反対の底深い闇色のワンピースである。


彼女に知識はないが、きっと貴重な品なのであろう艶のある襞が動く度に輝く。



「こんな貴重な着物…」


「似合ってますよ、セラ姉さん」



髪を梳き、後頭部を纏め上げて黒い花のかんざしで留める。


こんな世話をする相手がいるのか、ホムラは実に手慣れていた。


足元には黒いハイヒールを履かされ、慣れない服装に彼女は戸惑いを隠せないまま。



「ここのお屋敷の規則で、女性は必ず黒いお着物を着なければならないんです」


「そうなんですか」


姿見の前で整えられた彼女は、頸筋の包帯が痛々しいのを除けばそこらの女優に負けず劣らずの美貌であった。



それでも、美と醜の見分け基準が付かない彼女にはワンピースが眩し過ぎて仕方が無い。


それも凡人が着ればただの布切れというのを知らないのだ。