「ありがとう…大丈夫ですから」 咳払いをともなってやっと声が出た。 擦れた声は痛々しく、少年は僅かに表情を曇らせる。 「おねえさん、お名前は?」 「え?」 「お名前」 なにか、お菓子でもねだるかのように少年はセラの言葉を待つ。 尻尾は相変わらず振り回した儘。実際無いけれど。 「……えっと」 はてな。 自らの名前を名乗るのに意識が脳内をぐるりと一周した。 長いこと名前など聞かれなかったし、呼ばれもしなかった。 「……セラ」 「セラさん…セラ姉さん? そっか、綺麗な名前だねー」