「…行ってください」


手を拱いている男に向かってセラはか細い声でそう言った。


「放っておけば、このまま死ねるでしょうから」

水を汚さずに、と付け加える。


そのままセラは目を閉じた。

苦しそうにひゅーひゅー音をたてる肺は本能的に酸素を求めているが、放っておけばそれも絶えるだろう。



――…はて、どうしたものか。


そりゃ此処なら水は汚れない。

けれど景色が最悪になる。



美はあくまで月光が染み渡ったこの景色全体にあるのであり、水が汚れなきゃいい、とかいう環境保護運動家ではないわけだし。



が、しかし、女を木の根元で降ろしたのはあくまで彼であり、息絶えそうな女を叩き起こして泉から追い出すのも気が引けるわけだ。