アタシとお母さんはしばらくしてから
家に帰ることにした。

「ねえ陽菜!今日は外食しない?久々に高いお寿司でも食べよっか!!」

お母さんの突然の提案から
一緒にお寿司屋さんに行くことになった。

「うわあ!お母さん、回らないお寿司さんなんて久しぶりだわあ!!」

「…最後に来たの、お父さんが生きてた頃だもんね…。」

「あ…。」

お母さんは言葉を濁らせてうつむいたままだった。

「良いよ別に…。」

アタシは知っていた。
毎晩夜中に1人で起きては、お父さんの遺影を見ながらずっと泣いているお母さんを。


お寿司を食べた後は、バスに乗ってかえることにした。

気まずい空気が2人の間に流れていた。



…お母さん。

アタシ、怖いんだ、憎いんだ。

世界の中でアタシはこの5年間
ずっとずっと辛い思いをしてきたのに

何も知らずに幸せに暮らしている人がいることが。
何の辛さも知らずに新しい命が次々と生まれてくるのが。


…いつの日にか

お父さんが、思い出に変わってしまうことが…。


でももっと怖いのは…
もっと憎いのは

今も忘れることのできない
アタシなんだ…。