お父さんは、アタシが小4の時に
不慮の事故で亡くなった。
お父さんはIT会社の社員。
いわゆる:サラリーマン:だった。
だけどある日、交通事故で目の前から消えてしまった。
原因はひき逃げ。
車に引かれそうになったおばあさんをかばい、お父さんが代わりに
犠牲になってしまった。
幸い、通行人が警察にすぐに通報をしたので
犯人はすぐに逮捕された。
しかし、お父さんははねられた時に頭を強打し
即死だったそう。
その日は
ちょうどお母さんとお父さんの
結婚記念日だった。
家で鼻歌交じりに料理を作っていたお母さんのもとに
一本の電話が入ってきた。
連絡を受けたときのお母さんの酷くショックを受けていた顔は
今までに見たこともないぐらいの悲しそうな顔だった。
アタシにとっては
*お父さんお命日*だが
お母さんにとってはその日から
*結婚記念日*ではなく*愛する者の命日*
となってしまったのだ。
犯人の名前は
蕪木秀則。
後から聞いた話では
蕪木はお母さんの友人だそう。
最初は蕪木の事を心から憎んでいたお母さんも
時間がたつにつれて蕪木を責めることをやめていた。
「…ねえ陽菜?今でも秀…、蕪木の事を憎んでるの?」
お母さんはお父さんの墓に手を合わせるアタシの顔を覗き込みながら
聞いてきた。
「…わかんない。でも許すとか、そういう甘いキモチにはまだなれない。」
そっかそっか、と軽く笑いながら交わしたお母さんだったが
きっと心の中では心が締め付けられているような気持なのだろう。
…アタシにとっては
たった1人のお父さんだった。
そのたった1人のお父さんを
失ってしまったのだ…。