私は誰もいない会場に来ていた

ここでいろんなことがあったことを思い出した

初めて健太の歌を聞いて、泣いてしまったこと。凌に偶然に会ってもめたこと。ライブ中みんなの前で名前を呼ばれたこと。たくさんこけには思い出がある。何度もここに足を運んで、いつも健太の歌声を聞いていた。そしてEternityを聞くたびに泣いた

でも、もうここで健太の声を聞けない

私は外へと歩き出した。ここには来ることがない・・・そう思いながら凌の元へと進んだ

ドアを開けると、しゃがんで凌は待っていてくれた

どのくらい待っていたのだろう。どんな思いでここにいたのだろう

「凌・・・」

「もういいのか?」

「ごめんね・・・」

「よし、帰るか」

凌は何も聞こうとしなかった。聞けなかったんだと思う。私がそうさせてしまったんだ

「ちゃんと頑張ってって言ってきたよ」

「そっか、えらいぞ」

私の頭をそっと触り、撫でてくれた

「真っ直ぐ帰る?」

「うん、今日は帰るね」

手を繋いで私の家の前まで来た

「亜美」

凌は私の両手を握り、私を真っ直ぐ見て、

「明日、学校でな」

私の手を離し、凌は手を振って帰って行った。本当は辛いのに、嫌な顔もせず、何も言わずに私を送ってくれた。健太に抱きしめられたことは言わないでおこうと思った。言ってしまうと凌がまた傷付くから・・・

「ただいま」

私は一言だけ言って部屋に入り、今日のことを思い出していた

健太の感触がまだ私に残っている。健太の温もりがさっき私のここにあったんだ。私は自分の胸に手を当ててみた。思い出しただけで胸が苦しくなる

健太は私に『愛してる』と言ってくれた。その言葉に嘘はなく、健太の本当の気持ちを私に言ってくれたんだと思う

本当にこのままでいいのか。明日、最後の見送りをしなくていいのか、私自信わからなかった