「亜美、幸せになれ。そして結婚して赤ちゃん産んで。亜美はいいお母さんになれる」

嫌だ・・・そんなこと言わないで・・・

「きっと亜美と別れてなくても、俺は東京に行ったと思う。だからこれでよかったんだ」

健太は拳の上に自分の手を置き、顔を上げず下を見ていた

「ごめ・・ん・・ね。そばにいれなくて、ごめん・・・ね」

「亜美が謝ることないんだよ。俺がもっとしっかりしていればよかったことで、亜美があいつを忘れさせること出来なかったんだから」

言葉が出て来ない。本当は『行かないで』って言いたいのに、凌のことを考えると私には言えなかった

「頑張ってね・・・」

私の最後の精一杯の言葉だった

「ここを出て行く以上、頑張らないとな」

フッと健太が笑った。私の大好きなあの笑顔で・・・

「・・・明日。11時の飛行機で行くんだ」

「私は見送らない。これからはテレビで健太を見ている」

行かない。見送りに行ったら私はきっと健太の後を追いかけてしまう

「そうだな」

「私、行くね」

もう健太に涙を拭ってもらえない涙を自分で拭き、立ち上がった

「最後に握手してほしい」

私は健太に右手を差し出した

グイッ

私の差し出した右手を引っ張り、私を健太の胸に押し付けた

「亜美、愛してる」

健太の声が震えていた。私は健太の笑顔を奪ってしまった。こんなに愛しい人の手を離してしまった

「健太」

私も健太に抱きついた

健太の匂いを忘れない。健太の温もりを忘れない。そして健太の愛を忘れない

「健太・・・バイ゙バイ」

私は健太の胸を押し健太から離れ、走った。一度も後ろを振り向かず、必死で走った

これでいい。私と健太は別れてよかったんだ。健太は夢を追い続けてほしいから・・・