やさしい手のひら・前編【完結】

また暗い会場に出て、隅っこを歩いた

「あっ、すいません」

誰かにぶつかってしまい、顔見てみた

「凌…」

なんでここにいるの?どうして?

「亜美…」

どのくらい聞いていなかっただろう
私の大好きだった凌の声

「亜美、行くぞ」

私の体を引き寄せ、私の顔を見た

「川崎さん!」

凌が健太くんを呼んだ

「亜美と付き合ってんですか?」

健太くんは低い声で

「付き合ってないけど」

「俺、亜美のこと諦めてないですから。亜美を取り返します」

「はあ?お前亜美に何したかわかってんの?どれだけ泣いて苦しんだかわかってんのかよ」

お互い一歩も引かなくてどうしたらいいのかわからない

「亜美には俺しかいないですから」

凌がそう言った瞬間

「行くぞ、みんな待ってる」

健太くんは私の手を掴み歩きだした

「亜美、俺待ってるから」

言わないで。私は揺れてしまう
今すぐにでも凌の胸に飛び込みたくなる
お願いもう私に関わらないで…

「亜美、泣くな」

どうしても健太くんには気付かれてしまう

「泣いてない」

「嘘つき」

泣かない。凌のことでもう泣かないって決めたのに、
いとも簡単に破られてしまう

「健太くん、行こう。祐介くん達待ってるよ」

私は健太くんの腕を引っ張り居酒屋へ向かった