やさしい手のひら・前編【完結】

朝も帰りも凌は一人でしゃべっていた
でも私はそんな声が耳に入らず上の空だった

「凌くーん」

甘ったるい女の声が聞こえた

どこかで見たことある

「凌くんあれからぜんぜん電話くれないじゃん」

あれから?

分かった
この間一緒にいた女だ
凌は気まずい顔をして私を見た

「彼女?」

「あっ…う、うん」

何で即答返事してくれないの?
私といてまずかった?

「私帰るね」

見てられない
こんな凌見ていられるはずがない
私はこの場所から逃げたかった

「亜美、ちょ、ちょっと待て」

「じゃあ」

私は逆の方向に向きを変え、ひたすら走った

ハァハァハァ

息が苦しい
走った勢いと凌と女の姿
両方のことで息が苦しかった