五月ちゃんから信じられない告白を受けた私は、とにかくその場で自分の心を落ち着けようと必死になっていた。


 ……死ぬ? ……死ぬって……何? 「末期の癌」って五月ちゃんは言った……けど、それじゃどうしてこんなに穏やかでいられるの……?


 私なら自分の運命を呪って、泣き叫ぶだろうと思うのに……。
 私の視線の先の五月ちゃんは、とても死を目の前にした人物じゃない。確かに瞳に涙は浮かんでいるけれど、それは迷いのない、とても綺麗な涙に見えた。


「こらぁ! 隆志! 練習で手を抜くなぁ!」
 笑顔の五月ちゃんからの、多分精一杯の笑顔と励まし。
 五月ちゃんの視線の先の隆志君は首を竦めると「にゃはは」と笑って、信じられないスピードでボールを追い出した。
 そしてドリブルしている先輩からボールをスティールすると、それを素早くパス。


 私は祈った。


――五月ちゃんが浮かべている涙に、隆志君が気づいてくれる事を――


 でも、それは、ただの私の願望でしかなくて……。
 隆志君は無心になってコートを走り回っていた。
 気付くはずがなかった。