物語を紡ごう。
 彼と彼女の心を記そう。風に舞う名残雪のように、淡く切ない二人の物語を。
 時を紡ごう。
 彼と彼女が歩いた幸せな時間を。短かったけれど、共に歩いた幸せな時を。





 名残雪が舞う。
 一本の桜の木の下で、男の子が座り込んでいた。顔を見詰めると、やはり涙を流していた。
 失う事を、私達は考えていなかったのかもしれない。
 気づいた時には既に遅くて……。
 だから彼は、涙を流す以外に方法がなかったのだろうと思う。


「五月……」
 彼が呟く彼女の名前。
 その言葉は名残雪と共に、風で空に舞い上がっていった。
 私はただ、彼の悲しみと愛情が、彼女に届く事を祈った。