「その唐揚、胸肉が使われていませんでしたか」

「ああ、そうだったかもしれない。けれど、十分に柔らかかったよ。脂ぎっていなくて、この年でもなんとか食べられた」

「……3日間、重曹やマヨネーズにつけて柔らかくしておくんです。安い胸肉でも、手間隙を惜しまずに」

それが、あの唐揚だった。

子供には、まだ筋張っているように感じた。

しかし、それでも美味しかった。

行事の度にねだる唐揚。

奮発して、工夫して、手間をかけて作ってくれた唐揚。

母は、今でも、覚えていてくれたようだ。

2度目のプロポーズ、それが母にとってどれだけのことなのか、想像するしかない。

けれど、その夜に、相手の好物ではなく、あの唐揚を作ったということは、一体何を示すのか――


答えは、母に聞くしかない。

誠一は、頭を下げて病室を出て行った。