――父親の事業が軌道に乗らなかった頃、家はひどく貧しかった。

お弁当を用意していく日、おにぎりしか持たせてもらえない日も多くあった。

そんなあるとき、母が聞いた。

「運動会のお弁当、何が食べたい?」

去年の運動会、隣で弁当を広げていた家族がおいしそうに頬張っていたのが、大きな唐揚だった。

誠一は、迷うことなく叫んだ。

「唐揚いっぱい!」

母は、一瞬目を見開いたが、笑顔で頷いた。

そして、その夢は、叶えられた。