「こやつは白子だ」

深い声が響く。

誠一の背後に獏が姿勢よく座っていた。

しかし、またも誠一の目には獏が獏として捕えられなくなっていた。

直視しているのに、その不恰好な鼻のある顔が般若のように見え始めていた。

形容しがたいが、二重に見えているのだ。

「我の姿が、捉えられなくなっているようだな」

獏は、誠一の目の前まで歩み寄った。

大きさは、誠一の膝ほどにもかかわらずその威圧感は何倍にも膨れ上がり、彼を慄かせた。

「我の本当の姿を見ようというのは……どうやら、よほど素質があるようだ」

獏は、正面から誠一を射抜くように見つめた。

――そして、まさに獣の咆哮をあげた。

あまりの威圧に、誠一は指一本動かせない。