「母さんね、再婚の予定があったのよ」

姉から、沈黙を破る。

「倒れる前日に、指輪を貰っていたの」

点滴の刺さる左手、その指には確かに指輪があった。

10年分老け込んではいるが、それでも母は美しかった。

「そうか」

「……どうにか、ならないのかしらね」

姉の声は震えていた。

誠一は、梓を思い出していた。

まだ、結婚も婚約も考えていない――が、婚約指輪を渡した次の日、梓がこんなことになったら……。

誠一は、自分の無力を思い知った。

自分は、何も、できない。