父親が亡くなった後、事業を引き継ぎ切り盛りしているのはこの10歳上の兄である。

母親と、一緒になんとか傾きかけた事業を立て直した。

そして誠一は、この兄とどうしても上手くやることができなかった。

「仕事、上手く行ってるのか」

「まあね。三流企業だけど、食べてはいける」

兄は、鼻を鳴らすように笑った。

誠一は、なぜこの兄と合わないのかを、考えた。

数年前、大学受験を失敗して2流大学に入ったことが発端だった。

それまでなんとなく見下しているように感じたこの兄の目線には、はっきりと侮蔑の色を感じ取った。そして、些細なことに端を発した口論は、ただの口論に収まらなかった。親父が、脳溢血で亡くなったばかりのことで、家全体がぴりぴりしていた。そして、18歳にして家を出た誠一は、父親からの遺産と、アルバイトで自活を始め、今日まで家には近づかなかった。