男は歩みを止め、声のした方に振り返る。

「誰だ?
そうはいない筈だがな…
私の名前を知っている人間など」

男の視線の先には、先程まで物影に隠れていた、一人の男がいた。

小柄でやや猫背、おデコが広めな黒い短髪、顔は…カッコよくもなければ不細工でもない普通の顔、キョロッとした丸い眼が小動物を思わせる。

ネクタイを外したネズミ色のスーツ姿…、やや痩せ気味の体格は、あまり筋肉は付いていないようだ。

ゆっくりと向かって来るその男を見て、つまらなそうにため息を吐く黛一輝。

「フン、貴様か
最近、影で何やらコソコソしていたようだが…
貴様のような矮小な存在が何かしたところで、我が悲願の達成を邪魔することはできんぞ…



――貫よ」

「………
10年以上ぶりに会って第一声がソレかよ



――クソ親父」

会うなり互いに罵り合う二人の男。

こうして、役者は全て出揃った。