◇

チュンチュン…チチチ…

「………」

雀の鳴き声がする朝、美柑はベッドの上で目を覚ます。

寝癖頭でノソリと起き上がり、パジャマのまま、寝ぼけ眼(まなこ)で2階へと向かう。

「おはようございます
美柑、コーヒーは要りますか?」

事務所2階の客間には、匠一人だった。

「おはようタカさん
うん、飲むー」

半分眠っている頭で挨拶を返す。

「どうぞ」

コポコポと、手際よくコーヒーを煎れ、美柑の好みに合わせて、角砂糖を一個とミルクを混ぜ、渡す。

「ありがと…うん、美味しい」

「そうですか」

ニコリと、いつものようにエレガントに微笑む…。

「………ねぇタカさん」

「なんですか?」

コーヒーでようやく完全に眠気が吹き飛んだ美柑が、匠に話し掛ける。

「私今日…タカさんとつかポンに会った時の夢を見た」

「7年前…ですか
懐かしいですね」

「うん………
あの時…もしタカさんの飼ってる犬の名前が“犬太郎”だって知ってたら…
私、タカさんに名前付けてなんて言わなかっただろうね…」

「う゛
すみませんね、ネーミングセンス0で…」

ちなみに猫は“猫太郎”、ハムスターは“公太郎”だ。

「………ニヒ」

珍しく拗ねている匠を見て、ニヤァ〜ッと笑う美柑。

「でも私、桃戸美柑って名前気に入ってるよ
タカさんにしては上出来だよ!ウリウリ」

拗ねてそっぽを向く匠の背中を、人差し指でグリグリと押す美柑。

「コ、コラ
やめなさい」

「や〜だ」

そんな、穏やかな朝の風景。

美柑の寝癖頭に差し込まれている桃の花が、匠の背中を押す度、ユラユラリと揺れていた…。

TO BE NEXT →『美那海響子のとある一日』