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「おぉ〜〜凄いですね…」
見張り台から眺めるタキシード姿の男が、少年の奮闘ぶりに驚嘆の声を上げる。
少年の姿自体は、敵兵や砂埃に邪魔され確認できない。
だが…少年の居場所、そして少年の圧倒的攻撃力は、遠く離れたここからでも確認できる。
大国の軍隊が、少年が突き進むところを中心に、パックリと二つに割れていくからだ。
それは、あたかもモーセが海を割るかの如くだった。
「驚きましたね…あの少年、あれ程の使い手でしたか
あれだけ敵陣に食い込んでしまえば、同士討ちになる為銃も使えませんしね…
攻撃は最大の防御といったところですか」
「………でも」
「ええ、あのまま孤立した状況を続けるのは、あまりよろしくありませんね…」
仮に、仮にもし少しでも、少年の突進が弱まろうものなら、少年はたちどころに人の波に押し潰されてしまうだろう。
いくら無尽蔵のスタミナを持つ少年といえど、最初から最後まで同じ動きを続けるのは不可能なこと。
サポートなしの単独で打ち勝てる程、25000の大国軍は甘くない。
「全く…世話が焼ける」
傍観していた少女が、愛用のライフル銃を構え、ポツリとそう呟いた。
