『A』

 
       ◇

「おぉ〜〜凄いですね…」

見張り台から眺めるタキシード姿の男が、少年の奮闘ぶりに驚嘆の声を上げる。

少年の姿自体は、敵兵や砂埃に邪魔され確認できない。

だが…少年の居場所、そして少年の圧倒的攻撃力は、遠く離れたここからでも確認できる。

大国の軍隊が、少年が突き進むところを中心に、パックリと二つに割れていくからだ。

それは、あたかもモーセが海を割るかの如くだった。

「驚きましたね…あの少年、あれ程の使い手でしたか
あれだけ敵陣に食い込んでしまえば、同士討ちになる為銃も使えませんしね…
攻撃は最大の防御といったところですか」

「………でも」

「ええ、あのまま孤立した状況を続けるのは、あまりよろしくありませんね…」

仮に、仮にもし少しでも、少年の突進が弱まろうものなら、少年はたちどころに人の波に押し潰されてしまうだろう。

いくら無尽蔵のスタミナを持つ少年といえど、最初から最後まで同じ動きを続けるのは不可能なこと。

サポートなしの単独で打ち勝てる程、25000の大国軍は甘くない。

「全く…世話が焼ける」

傍観していた少女が、愛用のライフル銃を構え、ポツリとそう呟いた。