『A』

 
       ◇

「………で、その後は、毎日電話したり、お店にいったりして、なんとか口説き落としましたよ」

「なるほど…吉村君の方がぞっこんラヴだったわけですね」

「う………まぁ、そう…ですね
しかしぞっこんラヴとは…」

「ところで一つ気になったんですが…
どうして、彼女は吉村君の絵を見て、怒ってしまったんですか?」

「ああ、それはですね………」
「っ!!
何かにつかまって!!」

「えっ?」

反射的に前を見た健二郎の目に映ったものは、真正面から迷わずこちらに突っ込んで来る大型トラック。

衝突する!

「フッ!」

そう思った瞬間、健二郎の視界が、90度左へ反転する。

匠の壮絶なハンドル捌きで、黒のリムジンは、左側の車輪だけで、ウイリー走行を始めたのだ!

リムジンはトラックとすれ違い、トラックの側面を、忍者よろしくの壁走りで走行する。

トラックは勢い余り、リムジンの後ろを走っていた車数台を轢き潰し、バスにぶつかったところで、ようやくその動きを止めた。

…トラックと交差した後、やや離れた場所で、リムジンは180度ターンして、トラックの方を向き停まる。

「怪我はありませんか?
吉村君」

「な、なんとか…」