「……どうした?」


 祥多は心配そうに声をかける。すると花音は立ち上がり、自分の席に着いた。

 またやってしまったと祥多は落ち込む。

 美香子が現れてからというもの、花音と今まで通りに付き合えない。


「ね、祥多君。ピアノ弾いて?」

「へ?」

「弾けるんでしょ? 看護師さんが言ってたよ」

「………」

「祥多君!」

「悪ィ。今そんな気分じゃねぇ」


 祥多は美香子の頼みを断り、チュウの元へ行く。それから席を教えてもらい、無言で席に着いた。


 頼みを断られた美香子は口を尖らせ、不機嫌を露にしている。

 そして余計に美香子を不機嫌にさせたのは、祥多の視線の先に在る者だった。

 祥多が切なそうに見つめる先には、長い髪を下ろし、机に突っ伏している花音の後ろ姿。


 美香子は唇を噛んだ。

 確かに花音は可愛い。腰まである長い髪は丁寧に手入れされていて、肌もそう荒れてはいない上に小柄だ。

 クラスの男子の中にも数人、花音に好意を抱いている人間がいる事を美香子は知っている。

 しかし、美香子も花音には負けてはいない。髪は短いが体型は良く、肌も手入れは欠かさない為に艶がある。

 自分で言うのもなんだが、美人だと思う。それなのに、祥多は見向きもしない。まるで花音しか見えていないかのように、美香子には目もくれないのだ。