「葉山。何であんな嘘吐いたんだよ」

「嘘?」

「俺には彼女なんていないし、要らない」

「……花音ちゃんも同じ事言ってた。どうして? 彼女作らないって決めてる理由は?」

「長くないから。俺、いつ死ぬか分かんねぇ体なんだ」


 美香子は大きく目を開く。

 長いこと入院していると聞いて、体調的に良いとは思わなかったが、まさかそんなに重いものだったとは。

 美香子の顔から色が消える。頭が真っ白になった美香子は、祥多の席の前でただ突っ立っていた。


 何も、知らなかった。

 知らなくて当然だとしても、そんな、祥多がいなくなるという事を考えていなかった。当たり前のように生きて行くのだと思っていた。


「友達としていてくれな。じゃねーと俺がきつい」


 苦笑する祥多に、美香子は泣きそうになる。

 そんな美香子を慰めたのは祥多ではなく、開けっぱなしの窓から入り込む冷たい風と静かな教室だった。

 動揺して落ち着かない胸中が、だんだんと落ち着きを取り戻す。


「ごめんな、こんな暗い話」


 祥多は申し訳なさそうに謝る。美香子は首を振った。


「話してくれてありがと。でも、でもね、祥多君。それでも私は祥多君が好き。彼女でいちゃダメ…?」

「……ありがとな。でも、葉山の好意は受け取れない」


 美香子の好意を拒んだ祥多の表情は真剣で、美香子はどうしようもなく虚しくなった。

 そしてその虚しさは行く宛もなく、間違った方向へ進んでしまう。


「やだ。そんなの嫌だ。私は祥多君の彼女だから」

「葉山」

「絶対に絶対に彼女だから!」


 一歩も譲らない美香子に、祥多は大きな溜め息を吐いた。

 これ以上言っても彼女は決して譲らないだろう。ならば、言うだけ無駄だ。

 こちらもムキになり、譲歩しなければ美香子の行動は更におかしな方向へ突っ走ってしまうだろう。


「……授業始まるだろ。早く音楽室に行こうぜ」

「ん」


 祥多はどうしようもない思いを抱え、途方に暮れていた。