To.カノンを奏でる君

「そんだけ?」

「いや? 頑張り屋で優しい奴だ」

「じゃあ私は?」

「葉山は……面白い奴」

「他に!」

「他にぃ? 思いつかねー」

「もう」


 祥多が花音の事を良く言ったので、つい張り合ってしまった。一昨日出逢ったばかりなのに、無茶を言った。


「花音ちゃんの事、好き?」

「……え」

「答えてくれなきゃキスしちゃう」

「は?!」

「どっち」


 動揺する祥多に、美香子は迫る。

 祥多は怯み、降参した。


「分かった、答える」


 その言葉を聞いて、美香子は迫るのをやめた。

 少し距離を置いた美香子に安心し、祥多は一息吐いた。


「大切に想ってる」


 祥多は真面目に答えてくれたが、美香子は納得しなかった。曖昧な答えだからだ。


「全然答えになってない!」

「これが本音なんだよ。好きとかさ、そんな言葉じゃ足りねんだ」


 そう、祥多の想いはもっと深い。

 好きだとか愛してるだとか、その人を想っていると表現する言葉はあるけれど、そんな簡単に伝えられるほどの想いではないのだ。


「花音には言うなよ」

「え?」

「約束だからな」

「約束ってどういう意味?」

「俺が言ったんだ」


(お互いを好きになる事はやめようなって)


 祥多は窓の外に目をやり、数年前のあの日に想いを馳せる──。