To.カノンを奏でる君

「ぷっ」


 何度も同じ失敗を繰り返す美香子を見、祥多は笑った。

 美香子は顔を真っ赤にして病室の中に入る。


「ごめん。またやっちゃった」

「別にいーから、ノックくらいしなくても」

「面目ない」


 美香子は照れ笑いしながら頬を掻く。

 それから祥多を見ると、祥多の視線は美香子に向いていなかった。扉の方に向けられている。


 想い人の訪問を待ち侘びるように。


「花音ちゃんなら来ないよ」

「ん?」

「当分行かないって」

「……体調、良くねぇの?」

「体調?」


 意外な事を訊かれた美香子は返答に困る。


「いや、何でもねぇ。アイツ推薦で忙しいからな」

「うん」


 美香子はとりあえず話を合わせる。


(花音ちゃん、推薦出すのか…)


 美香子は祥多の言葉で花音の事を知る。

 本来ならば、花音の言葉で祥多の事を知りたかったというのに。皮肉なものだ。


「ねぇ、祥多君と花音ちゃんと花園君って付き合い長いの?」

「俺と花音は3歳の時からだけど、直は小1の時からだな」

「ふーん。長いんだね」

「だな。三人でいるのが当たり前になってたんだよなぁ…」

「花音ちゃんはどんな子だった?」

「花音? 負けん気が強くて不器用な奴だったな~。て、今でもか」