To.カノンを奏でる君

 良い機会なのかもしれない。互いが、視野を広げる為の。

 例えそれが傷を、痛みを残す事になろうとも、それはいずれ為になる。


「直ちゃん」

「ん?」

「祥ちゃんといられなくなっても、直ちゃんは一緒にいてくれるよね」


 遠い目をしたまま、花音は気落ちした声で懇願するような事を言う。

 直樹は、花音が気づかない優しい目をして言った。


「当たり前。親友でしょ」


 その言葉に、花音はやっと笑んだ。まるでその言葉だけでもういいというような笑み。

 全ての諦めのように思える笑みを、花音は気づく事なく浮かべていた。


(何なのよ!)


 美香子は怒りを鎮められないまま、病院の廊下を歩いていた。


 仲良くなれると思っていた。いや、仲良くなるつもりだった。仲良くして祥多の事を聞き出して、それで…といろいろ考えていた。

 それなのに、花音とは相容れない事を知った。


 常に人の上に立っていたので、花音のように自分の意見をはっきり述べて来る者はいなかった。

 新鮮な感じもするが、初めての事でうまく対応出来ずに対立してしまった。とは言っても、本人は寧ろ自ら対立を選んだのだが。


「祥多君! ……あ」


 またまたノックを忘れ、扉を開けてしまった。