To.カノンを奏でる君




「ノンノン。今日はどうする?」

「行かない」

「行ってあげてよ。タータンはノンノンが来るの待ってる」

「いい」


 花音だって会いたくない訳ではなかった。けれど、行けない事情が幾重にも重なり、どうしようもない。


「行かないんでしょ、花音ちゃん」


 美香子が相変わらず不機嫌そうな顔をして、花音の所に来る。

 教室にいる生徒全員の視線が、美香子と花音に集まる。


「……うん」


 花音は小さく頷いた。


「私は行くわよ。毎日通うんだから」

「ん、それなら祥ちゃんも寂しくないだろうし…。お願いします」

「な…っ」


 嫌味で言ったつもりが、まともに返され、美香子は怒る。

 花音の言葉は、美香子にとって見下しているように思えた。


「それは好都合! ずっとそうやっていればいい!」


 葉山はカバンを肩にかけ、怒り任せに教室から出て行った。


 直樹はやりきれない思いで俯く花音を見つめる。


「ばか。あんな煽るような事言って。自分が傷つくって分かってるでしょう?」

「……近づきすぎたのかもしれない」

「え?」

「きっと、近づきすぎたの」


 花音は遠い目をする。


 幼少の頃よりの付き合いで、互いの事をよく知っている。

 だからこそ二人だけの世界が成り立ってしまい、まだ幼い頃に出会った直樹以外の人間が割り込んで来た時の対応がうまく出来ない。