「もしかして、ノンノンの名前と同じだから?」


 悪戯な言い方に、祥多は一度キーを間違える。

 直樹はにやりと笑う。祥多が動揺しているのに気づいたのだ。


「花音にカノンを教えるなんてロマンチックねー」


 また、キーを間違える。


「まるでプロポーズか告白だわ」


 テンポがずれる。


「『僕はこの曲が好きなんだ。何故って? 君と同じ名――」


 バーンッと鍵盤を盛大に叩く音が室内に響いた。


「いい加減にしろよ、直」


 祥多は顔を真っ赤にして直樹を睨みつける。どうやら図星のようだ。

 それが分かった直樹は愉快そうに笑っている。それが祥多には不愉快。


 花音は意味が分からず首を傾げっぱなしだった。















 病室に戻った三人だが、祥多は不機嫌で直樹はにやにや笑っていた。


 花音は相変わらず意味の分からないという顔をしている。


「マジで帰れよ、お前」

「やだ」


 さっきからこの会話を繰り返している。

 外が暗くなっているのを見、花音は本題を切り出す。


「祥ちゃん、イヴの話だけど」

「イヴ?」

「そう。例年通り、三人でやろうっていう話になったんだけど、それでいい?」

「ああ」

「じゃあ、そういう事で。一人五百円徴収するから用意しといてねー」


 話が難なくまとまり、いつも通り三人で過ごせるクリスマス・イヴ。花音は楽しそうに笑った。