「祥ちゃんっ……」


 躊躇う事なく背中に回された細い手。虚勢を張るのはもう、限界だった。

 祥多にはこの手が必要なのだと、はっきり分かってしまった。もう手放す事は出来ない。


「後悔するぞ」

「祥ちゃんと離れる事の方がずっと後悔する」

「また傷つけるかもしれない」

「その時は受け止める」

「──俺でいいのか?」

「祥ちゃんじゃなきゃやだ」


 洟を啜り、離れてしまわないように回した手に力を込める花音が愛しくて仕方なかった。


(覚悟、決めるか──)


 浅ましい自分を受け止めながら歩いて行く覚悟を。並大抵の、生半可な気持ちではやっては行けない。

 今までの全てを背負い、それでも尚、花音の隣を歩いて行く覚悟を。


「……お前が幸せである事が、俺の一番の願いだ」

「私の幸せは、祥ちゃんが握ってる」

「そうか。なら、俺も自分と向き合わなきゃだな」


 そうまで言ってくれるのなら、恐れる事は何一つない。


 目いっぱい幸せにする事を誓う。彼女に、そして自分に。


「俺もずっと好きだった」

「祥ちゃん…っ。私も」

「いや。多分、お前が俺を好きだと思う気持ちより、俺がお前を好きだと思う気持ちの方がおっきいぜ?」

「……どうしてよ」


 若干、不貞腐れたような声でその真意を問う花音。祥多は笑う。


「死を目前にしながら好きになったからな。お前の一回りも二回りも、好きだって気持ちはおっきいんだよ」

「私の方が好きだよ!」


 涙は乾き、不満そうな顔を上げた花音に、祥多は豪快に笑った。それから頭を撫でる。