「今までごめんね」


 美香子は申し訳なさそうに頭を下げた。

 たくさんの邪魔をして来た事、何よりたくさん花音を傷つけて来た事。

 謝っても足りないくらいの事を、美香子はして来たのだと自負していた。


「何で謝るの、美香子ちゃん。私、美香子ちゃんが悪いなんて思ってないよ」


 花音は優しく、美香子に声をかける。


「親友同士のケンカなんて、仲のいい証拠じゃない」

「花音ちゃん…!」

「美香子ちゃん。もういいよ。苦しまなくていいんだよ」

「ありがとう…っ」


 美香子は顔を覆って肩を震わせた。

 して来た事が非道だった分、背負って来た罪悪感は重いものだった。だからこそ、花音の言葉は美香子を優しく救い上げた。


「わ、たし……祥多君も、花音ちゃんも、大好きだから…っ。幸せになって──」


 ひどく澄んだ涙を流し、美香子は笑った。

 花音は美香子の手を取り、包み込む。


「私も美香子ちゃんが大好き。だから、美香子ちゃんも幸せになって」


 うんうんと、美香子は何度も頷いた。ありがとうと何度も繰り返した。


(礼を言うのはこっちの方。美香子ちゃんがいなかったら“今”はなかった)


 だから、美香子が自分を責める必要はない。

 あの時は最悪だと思っていた出来事も、今ではあれがあったからこの今があるのだと思える。


 今までの積み重ねに、悔いはない──。


 花音は心からそう思った。