To.カノンを奏でる君

 カシャッカシャッと良い音がする。


 レンズ越しの祥多は、子ども達はどんな風に映っているのだろうか。花音は直樹を見つめる。

 花音の視線に気づいた直樹は、笑ってカメラを花音に差し出す。


「覗いてごらん」


 誘われるままに花音はカメラを構え、グランドピアノの方にカメラを向ける。


「わぁ……」


 花音は思わず感嘆の声を上げた。


 目に映る景色とレンズ越しに映る景色はこうも違って見えるのか。

 実質的には変わらないかもしれないが、限られた枠の中で輝く笑顔。その貴重な一瞬一瞬を残すのがこのカメラの役割。


 花音は自然とシャッターを切っていた。


 リズムに乗って楽しむ祥多、手を叩いて笑う子ども達。

 この一瞬一瞬を流さないようにと花音は夢中でシャッターを切った。


 直樹はそんな花音を優しく見つめていた。が、異変に気づく。


「ノンノン…?」


 止まらないシャッター音、そして静かに流れる涙。

 小さく肩を震わせ、唇を強く噛む花音。


「ノンノン!」


 祥多達の邪魔にならない程度の声で、花音を制した。

 シャッター音が止み、カメラを下ろした花音の表情はとても痛かった。切ないほどの、泣き顔。


「花音」


 直樹は自分の胸に花音の顔を押しつけた。