To.カノンを奏でる君

「ありがとう、早河君」

「……礼を言うのは俺の方。こんな嫌な男を好きになりたいって言ってくれて、ありがとな」

「早河君は嫌な男じゃないよ。私にはとても魅力的で、凄くかっこいいよ」

「草薙……」

「私、まだ頑張るから。だから、身勝手だけど、支えてて欲しい」


 早河の好意を利用するようで心苦しかったが、それでも花音には早河の支えが必要だった。

 諦めそうな時、挫けそうな時、早河の言葉で立ち直る事が出来る。好きな自分でいる為に、早河の存在が必要だった。


「まだ、俺を頼ってくれるんだな……」


 耳許で聞こえる声が、震えていた。泣いているのではないかというほどに震えていた。


「俺、草薙を好きになって良かった。良かったよ…」

「っ……!」


(私、本当に早河君傷つけて、迷惑かけてばっかりなのに。そう言ってくれるの?)


 花音はぽろぽろと涙を零した。

 胸が切なくて、苦しくて──もどかしかった。同じ気持ちを返してやれない事が悲しくて、悔しい。


「ありがとう。ありがとう、早河君。ありがとう…」


 それしか言えない歯痒さに、花音は尚更涙する。

 そんな花音に、早河は心の底から花音に出逢えた事に感謝し、好きになった事を誇りに思った。


 世界一キラキラと輝いた恋をしたと思った。両想いにはなれないけれど、それでも自分に、誰かに誇れる恋をした──。


 早河は今、産まれて一番の幸せを感じていた。