To.カノンを奏でる君

『頼って、甘えてばかりでごめんね』

『ばーか。今更だろ』

『うん。いつもありがとう』

『お礼はキス一つで』

『お高いわよー、私』

『ははっ』


 冗談(満更冗談でもないが)を冗談で返し、笑ってくれる花音に早河は救われる。

 だからこそ、早河は言う事が出来るのだ。


『頑張れよ、草薙』


 ──好きな彼女の、恋の応援する事が出来るのだ。


『うん、頑張る。ありがとね、早河君』

『どーいたしまして。また何かあったら、一人で抱え込まねぇで電話しろよ。“何か”は話さなくていいから、とにかく電話しろ』

『うん、分かった。じゃあ、またね』

『ああ、またな』


 そしてこの日、新たな歯車が回り出す事を、まだ誰も知らないでいた。















「ごめんね、花音ちゃん。今日も……」


 祥多の母は申し訳なさそうに、花音に言った。

 また今日も、花音は門前払い。帰ろうとした花音だったが、ふと早河の声がした。


“頑張れよ、草薙”


 好きな人の恋を応援するのは、どんな気持ちなのだろう。

 きっと苦しくて、つらくて、泣きたくて──。

 早河の精一杯の優しさに、花音の心は動かされた。


 このままでは何も変わらない。ずっとこのままを繰り返すのはご免だ。


「おばさん、上がっていい?」

「ええ。その方が花音ちゃんらしいと思うわ、おばさん」

「ありがとう」


 花音は靴を揃えて上がり、まっすぐに祥多の部屋に向かった。

 階段を駆け上がり、ノックもせずにドアを開ける。