To.カノンを奏でる君

『私、祥ちゃんにいっぱいひどい事して来た。だから祥ちゃん、もう嫌になったんだよ、私の事。一生会ってくれなかったらどうしよう──』


 弱々しい、か細い声だった。不安で堪らないという花音の気持ちが、ひしひしと伝わって来る。

 それを受けた早河は悔しく思いながらも、何も言わない。


『っ、会いたいよぉ』


 ずしりと来る一言だった。

 早河は小さく深呼吸した。そうしないと、泣いてしまいそうだった。

 情けない話だが、叶わない恋の苦しさにみっともなく泣いてしまいそうだった。


『ごめんね……』


 不意に花音の謝る声が聞こえた。早河は驚き、耳を傾ける。


『好きな人の恋愛相談聞くの、凄くつらいでしょう?』


 ──あぁ、何ていじらしい。


 こんな時でも、早河を心配し、気遣う花音。

 そんな飾らないまっすぐな優しさに、三年前、早河は惹かれた。


『なーに言ってんだよっ。好きな女に、頼られて甘えられてんだぜ? 男に産まれてこれ以上の至福はないっしょー』


 おどけた言い方をすると、花音の笑う声がした。

 笑ってくれた事に、早河は一先ず安堵する。


『早河君、めちゃくちゃかっこいい』

『だろ? 惚れろ惚れろ。可愛がってやんぞー』

『あははっ』


 花音の笑い声が、淡く優しい柔らかな音色のように、早河の耳に届いた。

 花音のそんな笑っている声を聞いていると、とても幸せな気分になる。


(相当、熱上げてんなー俺)


 自分でも笑ってしまうほどに、早河は花音に惚れ込んでいる事を再確認する。