To.カノンを奏でる君

 そんな風に言われるのは初めてだった。多少、傷つく。

 それでも、ここで挫ける訳にはいかなかった。

 また明日会いに行こう──数日間、そうやって足繁く通い詰めた花音だったが、拒絶される日々が続いた。


 来る日も来る日も、会いたくないの一点張り。

 さすがの花音もお手上げ状態だった。

 互いの距離を離したくないのに、向こうからどんどん離れて行くのだ。

 もう、どうしたら良いのか分からない。


 そんな折り、早河から電話が入った。あのメトロノームの一件から、二人の仲を心配していたのだ。


『どうだ、時枝さんは』

『うん…。会いたくないの一点張り』

『そうか。ごめんな、ほんと』

『もーっ。早河君が悪いんじゃないって言ってるでしょ~』

『けどさ』

『気にしなくていいんだよ。早河君は悪くないんだから』

『草薙……』


 声に、あまり元気がなかった。

 明るく振る舞ってはいるが、三年の付き合いになる早河には無理しているのが伝わる。


『草薙。無理すんなよ。つらいんだったら、つらいって言え』

『早河、君……』

『俺の前でまで無理しなくていい。親友だろ、俺達』


 言いながら、早河は苦笑してしまった。

 親友と言ってしまった後悔と、親友と言えた快さとが混じり合う。


『何で会ってくれないんだろう。私、嫌われちゃったのかな』


 少しして聞こえて来た、花音の泣き声。

 早河は黙ってそれを受け止める。