To.カノンを奏でる君

「祥ちゃん? どうしたの?」


 胸を押さえる祥多を心配し、花音が顔を覗き込む。

 更に増す胸の苦しみに、祥多は唇を噛み堪えた。


 言うな、言うな。心中で繰り返す。言えば彼女が苦しむのは目に見えている。

 次第に祥多は落ち着きを取り戻した。


「悪ィ」

「大丈夫? 発作?」

「いや、あー……まぁそんなとこ」

「え、曖昧?!」


 祥多は花音から目を逸らす。思春期とは本当に面倒臭いものだ。


「タータン、もう6時になるわよ」


 直樹の言葉に、祥多はベッドから降りた。


「行くか、ピアノ室」


 祥多の後につき、花音と直樹は歩き出した。















 いざピアノ室に着くと、ピアノ室の前では今か今かと待ち構える小さなお客。

 祥多の姿を捕えると、一目散に駆け寄って来る。


「しょーた! しょーた!」

「今日はあれがいいー!」


 群がる子ども達を従え、祥多はピアノ室に入る。続いて花音と直樹も入り、部屋の隅――いつものポジションに立つ。


 リクエスト曲を聞かされた祥多は、軽やかに指を鍵盤上で滑らせる。

 子ども達は目を輝かせ、リズムに乗って体を揺らす。


「ふふ、いつもいつも飽きないわよね」

「うん」


 直樹の楽しそうな顔を見、花音は頷く。

 直樹はさりげなく首に提げて来たカメラを構える。