To.カノンを奏でる君




 翌日、花音は祥多の家を訪れた。

 離れてしまいそうな祥多を、繋ぎ止めておきたかった。

 いくら変わりつつあろうとも、祥多は祥多だ。花音の大切な幼なじみ。受け止めたいと思った。


 一日悩んで、そうして出した答えは、受け止めるという事。

 この先祥多がどう変わろうとも、離れずにその変化を受け入れて行こうと。

 人はどうしても、変わってしまう。記憶を失くした祥多が変わってしまう事はある意味で、当たり前なのだ。


 祥多が変わりつつある今、花音も変わらなければならない。

 自分と向き合い、また祥多と向き合って行かなければならないのだ。


「ごめんね、花音ちゃん。祥多、会いたくないって言うの」

「……そっか。じゃあ、これを祥ちゃんに」


 持って来た紙袋を祥多の母に手渡す。


「私が受験の時に使ってた問題集。分かりやすいから、使ってって」

「ありがとう、花音ちゃん。本当に助かるわ」

「これから大変だね、おばさん。志望校はもう?」

「まだ。私は通信制が良いんじゃないかって思うんだけど、定時制に行くみたいなのよね」

「定時制?!」

「ええ。働きながら通いたいみたい。お金の事を心配しているのかしらね」

「祥ちゃん……」

「花音ちゃんにいろいろ相談に乗って欲しかったんだけど、会いたくないだなんて言うし」

「また明日来ます。私も祥ちゃんの力になりたいって思ってるから」

「ありがとう」


 ドアを閉め、一息吐いた。


(会いたくない、か)