To.カノンを奏でる君

「悪い! そういう意味で訊いたわけじゃねぇんだ。ただ、女って男友達とよく出かけるもんなのかって訊きたかっただけで…」


 慌てふためく祥多の声は、だんだんと消え入りそうな声に変わっていった。

 何かを察した直樹は、躊躇いなく直球で尋ねる。


 お前らもデートか、という先ほどの言葉と、今の言葉ですぐに分かってしまった。


「ノンノンと早河君は、どこへ行くんだって?」


 祥多は驚いて直樹を見る。

 何で分かったんだ、と祥多の顔にはでかでかと書かれている。


(何年一緒にいると思ってんのよ)


 長い長い付き合いだ。それくらいすぐに分かる。

 いや、長い付き合いでなくとも今の祥多の頭の中は何でもかんでもお見通しだ。


「どこ行くっつーか……買い物して帰るとこだって」

「それで寂しがってるのね」

「さ、寂しがってなんかねぇよ!! ただ、むしゃくしゃして…」

「ヤキモチ焼くのはいいけど、それでノンノン傷つけちゃダメよ? 余計に離れてくわ」

「っ……」


 的を射た直樹の言葉に、祥多は言い返せない。


「ノンノンを本当に大切に想うのなら──」

「うるせぇ!! お前には関係ねぇだろ!!」


 苛立って声を張り上げ、いても立ってもいられず、祥多は二人の間を擦り抜けて去って行った。


 一方直樹は、寂しそうな顔をしていた。


「直樹君」

「タータン、だんだん変わっていくわ。アタシ達の知らない人になってくみたい」

「……うん。でも、祥多君もいっぱいいっぱいなんだと思うよ」

「分かってるわ」


 それでも、直樹や花音が祥多と過ごした時間は長かったから。

 変わってしまう祥多を受け入れる事は、簡単な事じゃない。


 皆、最善の方法を模索していた。