To.カノンを奏でる君




 一方的に別れを告げた祥多は本屋に向かって歩いていた。

 むしゃくしゃして気分悪い。

 花音は早河といる時の方が、良い顔で笑う。

 以前の自分は、彼女をあんな風に笑わせる事が出来ていたらしい。

 ――今は出来ない。彼女に当たり、傷つけるだけ。


(俺は……っ)


 違う。自分のしたい事は、彼女を傷つける事じゃない。

 楽しそうな顔で笑わせたい──それだけなのに。うまくいかない。


「あれ? 祥多君!」

「ほんと。一人で買い物? ノンノンは一緒じゃないの?」

「葉山、直樹……」


 本屋の隣の喫茶店の前で、三人は遭遇した。


「何だ、お前らもデートか」


 祥多は一人だけ疎外感を感じながら、寂しげに言った。

 美香子は顔を真っ赤にして反論する。


「ち、違うわよ?! デートとかそんな、全然そんなんじゃないんだから!!」

「ふふ。ノンノンの餞別代わりのプレゼントを買いに来たの」


 確かに、直樹の格好は相変わらずの女装。どこからどう見ても女にしか見えないという完璧な女装だ。

 デートと呼ぶには不似合いな気がするのは、きっと祥多だけではない。


「なぁ、葉山。男友達とよく出かけんのか?」

「ふぇ?!」

「あははっ! 何だかその言い方って、葉山さんが魔性の女だって言ってるみたいに聞こえるわ」


 ショックを受けている美香子の隣で、直樹は面白おかしそうに笑っている。


「わ、私ってそんな女に見えるんだ…」


 本気でショックを受けている美香子に、祥多は慌てて弁解する。