To.カノンを奏でる君




「悪かったな、せっかくの土曜日に付き合わせて」

「ううん、大丈夫」


 ショッピングモールを後にして、花音と早河はバス停に向かって歩いている。


「なぁ、本気で帰んの? 寂しー独り身に映画付き合うとかさ、そういう優しさが」

「ちょっと早河君!」

「ハイ」


 花音が急に立ち止まって早河を見上げた。早河は思わず立ち止まって堅い返事をする。


「少しは練習をしとこうとか思わないの?! 私達はたくさんの人を蹴落として合格したんだよ?!」

「……へ? この後付き合ってくれないのって、練習の為?」

「当たり前でしょ」

「な……んだ。俺はてっきり“愛しの祥ちゃん”に会う為だと」

「は……はぁ?! 何それ! 私と祥ちゃんは幼なじみなんだから、わざわざ土曜日に会う事もないでしょ!」

「草薙、時枝さん大好きだもんなー。毎日会っても足りないんだろー?」


 冷やかし口調の早河に、花音は顔を真っ赤にして怒る。


「へ、変な事言わないでよ! 大体、早河君には関係ない!」

「……あ。時枝さん」

「嘘つけ!!」

「いやいや、ほんとだから」

「……へっ?」


 花音はすぐさま振り返る。するとそこには、確かに祥多の姿があった。


「しょ、祥ちゃん…!」


 突然の遭遇に、花音は驚きを隠せない。

 噂をすると影がさす、とは正にこの事だ。


 何も言えないでいる花音を気遣い、早河が口を開く。