To.カノンを奏でる君






 祥多の退院祝いパーティーから数日後。

 花音は早河から買い物に誘われ、賑わうショッピングモール内を歩いていた。

 早河曰く、メトロノームを妹に壊されてしまったという事で、買い物はメトロノーム。


 土曜日の為、いつもより人が多い。


「迷子になるなよー、草薙」

「んなっ。早河君こそ迷子にならないでね」

「あ、俺なるかもー。だから手繋ごーぜ」

「ヤダ」


 冗談を言ってる早河を放置し、花音は一人先を歩く。


「あ、待てよ、草薙!」

「わざわざ休みの日に付き合ってあげてるんだから、さっさと買って帰るよ」

「え、マジ? この後映画とか行かねーの?」

「はいぃ? デートじゃないんだから」


 溜め息を吐かれた早河は少しばかり泣きたくなった。

 デートじゃないとはっきり断言された男の気持ち、きっと彼女は分かるまい。


「電子? 機械?」


 ズラリと並んだ数々のメトロノームを前に、花音は早河を見上げる。

 早河は顎に指を添え、考える仕草を見せた。


「迷ってんだよなー。前のは機械式じゃん? この際、電子式にすんのもありだよな」

「そうだねぇ。最近は電子式が多くなってるよね。メトロノームとチューナーが一つになってたりするし」

「ハイテクな時代だー。草薙は機械式だよな」

「うん」

「使えなくなったら、電子式にするか?」

「ううん、私はまた機械式にする」

「振り子のあの機械式でしか出せない音が良いんだよな?」

「うんっ」

「同感」


 そう笑いながら、早河は黒の機械式メトロノームを手に取った。


「……前と同じ型に同じ色ですか」

「黒が好き。この型に慣れた」

「なるほど」