To.カノンを奏でる君

「そうね。アタシにとってノンノンとタータンは宝物だからね」

「私にとっても祥ちゃんと直ちゃんは大切な親友だよ」


 直樹の顔を覗き込むと、さらりと黒髪が滑る。その仕草に直樹は胸を高鳴らせる。


「ノンノン可愛いっ!!」


 と、思わず花音を抱き締める。


「ノンノンは世界一可愛い!」

「直ちゃん、恥ずかしい」

「いやーん、そんな所も可愛いわ!」

「もー」


 この直樹には何を言っても無駄そうだ。花音は諦めて溜め息を吐く。


「……直。テメェ帰れ」


 二人は突然の声に驚き、離れる。

 祥多が頭を掻きながら起き上がった。


「しょ、祥ちゃん……起きてたの」

「直のバカ騒ぎでな」

「おほほ、ごめんなさいねぇ。ノンノンが可愛い事言うものですから」

「ったく……」


 祥多は溜め息を吐いた。


 母と花音の話をしたからか、花音の夢を見た。彼氏が出来たと言い、もう見舞えないと去って行く夢だ。

 我ながら女々しい夢だと嘲笑う。自分から切り出した約束は、今でもずっしりとのしかかっている。


 お互いを好きにならない──自分に対しての抑制でもあった。しかし、それは自身を苦しめる戒めの鎖に変わった。

 好きだと感じれば感じるほどに息苦しくなる。