To.カノンを奏でる君

「ありがとな」


 自分はちゃんと笑顔を作れているだろうかと不安になりながらも、花音が笑っているのを見て一先ず落ち着いた。


「“シアワセ音色”って言うタイトルなんだよ」

「ノンノン、アタシも欲しい~」

「ダメー! 祥ちゃんだけにあげるのっ」

「凄く良かったよ、二人とも」

「ありがと、美香子ちゃん」


 あの歌は祥ちゃんの心にちゃんと響いたかな。花音はそんな事を思いながら、笑っていた。


 君と君とともに過ごした日々に、偽りはないと胸張って言うよ。

 君が嘆く必要はないんだよ。

 過ぎ去った過去さえ今ではもう、心からそう、愛しいと思うよ。


 ──祥多に向けたメッセージだった。


 中学の時も、高校の時も、今も、祥多の傍で祥多を想った日々に、偽りなどなかった。

 祥多が抱え込んで、苦しむ必要などない。

 つらい事ばかりで泣いた日々も、嬉しくて笑った日々も、過ぎ去った過去は今ではもう心から愛しくて。

 だからもう、苦しむ必要も嘆く必要もないんだよ──と、ありったけの言葉を詰め込んだ。

 花音にとって精一杯の出来る事。それが伝わってくれればいいと、花音はひっそりと願った。















 退院祝いのパーティーは夜7時まで行われた。

 早河も大分打ち解け、直樹とメールアドレスなどを交換していた。


 花園宅から出て、それぞれ別れの挨拶を交わす。


「ノンノンはタータンと帰り道同じだからいいとしてー。葉山さんはアタシが送るとしてー。早河君は?」

「早河君は美香子ちゃんと同じ方向だよ」

「そう。じゃ、2対3で帰りましょうか」

「そだね」