To.カノンを奏でる君

「ま、まあまあ。落ち着いて」


 花音が仲介し、苦笑する。


「言ってくれたら手伝いに来たのに……ごめんね」

「別に花音ちゃんを責めてるわけじゃないの」


 美香子が慌てて弁解していると、呼び鈴が鳴り響いた。

 全員がそれに反応する。


「早くクラッカー持って! タータンが入って来たら鳴らすのよッ」


 直樹の言葉にそれぞれがクラッカーを持ち、祥多を出迎える準備を整える。


 ガチャ、とドアが開く音がした。


「直樹ー? 入るぞー」


 祥多の声がリビングに届く。

 それぞれが顔を見合わせ、確認するように頷いた。


 足音が近づいて来ると、直樹のかけ声に合わせて皆が一斉に紐を引く。


 パンパンパパーン!


 四つ分のクラッカーが盛大に鳴り響き、祥多は驚いて立ち止まった。

 その様子は直樹の描いた絵にそっくりで、花音と美香子は顔を見合わせて笑う。


「退院おめでとう、タータン」

「おめでとー!」

「おめでとう」

「おめでとうございます」


 直樹、花音、美香子、早河が順々に祝いの言葉を述べると、祥多はくしゃりと笑った。


「ありがとな、みんな」


 嬉しそうな気恥ずかしそうな祥多を見て、直樹と美香子は満足げな顔をする。

 主催者冥利に尽きるというやつだ。


「さ、食べましょ。葉山さんとアタシで腕を振るって作ったんだから」


 皿を配ったり箸を配ったりして直樹が積極的に動く。