「お母様がご病気で、介護の為に病院をお辞めになって以来ですから……二年振りですか?」

「はい。なかなか見舞う事も出来ずに済みません」

「そんな! お忙しい中、来て下さっただけでもう」


 祥多の母と由希が仲良さそうに話しているところを見て、祥多は首を傾げている。


 花音が祥多の傍で、小児科にいた時に世話になった看護師だと簡単に説明した。


「祥多君、退院おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「……随分と大きくなったね。凄くかっこよくなった」


 ふふ、と笑い、由希は祥多をまっすぐに見つめた。


「元気になって良かった。祥多君は何だか弟みたいで可愛かったわ。本当に思い出がいっぱい…。ありがとう、祥多君」


 由希が言う思い出が、今の祥多の中にない事を知っているのだろうか。

 どう答えれば良いのか分からず、花音を横目に見ると、花音は優しく頷いた。

 事情は知っているという風な頷きだった。安心して、祥多は由希と再度向き合う。


「今までお世話になりました。ありがとうございました」


 何も覚えていないと聞かされていた由希は、頭を下げた祥多に目を丸くして驚いた。

 しかしすぐに、祥多なりの誠意だと悟った由希は嬉しそうに微笑んだ。


 礼儀がしっかりしているところは昔と変わらない。覚えていなくとも、世話になった人には礼を言う。

 それはとても、祥多らしかった。


「たくさんつらい事もあるはず。でもね、忘れないでいて。貴方にはたくさんの味方がいる。たくさんの人達に支えられている」