背中の温かみに気づき、祥多は花音に気を向ける。しかし花音は無言で祥多の背中に凭れかかっている。

 それだけで何も言わない、何もしない花音の背中から、ただ温もりだけが伝わって来た。


 人の温かさが、花音の気遣いが、余計に涙を誘う。


 祥多は我慢せずに泣いた。それこそ大声で喚く事はなかったが、祥多にしては派手に泣いた方だった。

 その間、花音はずっと祥多に背を預け、黙っていた。


 こんな風に、泣きたい時に黙って温もりを与えてくれる花音が、心から愛しいと感じた。


「ねぇ、祥ちゃん。退院いつ?」

「……二週間後」

「ほんと? 良かった。ギリギリ咲き始めの頃かな」


 窓の外の、まだ少し侘しい桜の木を見つめる。


「一緒に桜見に行こうね。退院したらすぐ」


 優しく、どこか寂しそうな花音の言葉に、祥多は小さく頷いた。


 この時、二週間後に退院と聞いて花音がほっとしていた理由を、祥多はまだ知らない。